感想 —— てのひらの宇宙
最近,SFアンソロジーをちょこちょこ読んでいるでいる。『星雲賞短篇傑作編 てのひらの宇宙』を読み始めたら,当たり作多めな気配を感じたので感想をざっと綴ることにした。
フル・ネルソン —— 筒井康隆
記念すべき第一回受賞作。訳がわからないけどなんか面白い気がする感じの作品。わからないけど面白いと言うのは,サイバーパンクにありがちな方面の話ではなく,もっと実験的と言うか誰が読んでも作者さえもわからないみたいな感じ。
白壁の文字は夕陽に映える —— 荒巻義雄
精神医学系と言われるようなジャンルのSF。そもそもが好きな題材であるし,途中から伝奇的な要素も混じってくるのが非常に良い。『パプリカ』とか好きな人は好きかな? 50年近く前に書かれ,ググってもあんま情報・感想が出てこない作品ではあるが1度読んで欲しいなと思える。
ヴォミーサ —— 小松左京
ミステリSF的な話。個人的にはどんでん返し度がそこそこ高く面白かった。よくありそうな設定だけど意外と読んだことがないような……
言葉使い師 —— 神林長平
息の長い神林長平氏,『10年代傑作選』でもみたような……。言葉の力,みたいななんとなく幻想感のある二人称小説。
火星鉄道一九 —— 谷甲州
“リアル” な宇宙戦争もの。がんばるおっさんみたいなとこが本編かもしれない。
山の上の交響楽 —— 中井紀夫
伴名練さんも薦めていたような気がする作品。
音楽の話なんだけど,最後の方は視覚的な美しさもある。いわゆるSFっぽさはあんまりないけれど非現実な世界を通して現実世界を描くというのは本質的にSFっぽい。この人たちも自分たちと同じように悩むのだなみたいな。
恐竜ラウレンティスの幻視 —— 梶尾真治
—— はじめに言葉ありき
恐竜と知性がテーマ。知性は素晴らしいものなのか?っていう。
そばかすのフィギュア —— 菅浩江
SFオタクが好きそうな要素詰め合わせ的な感じらしい。
テーマとしては,ロボットと人間の関係と恋。軽く読みやすい話だけど好きですね。
くるぐる使い —— 大槻ケンヂ
不勉強なもので大槻ケンヂという名前に聞き覚えがなかったが,ロックミュージシャンの傍90年代にsfをいくつか書いていたらしい。
この作品はSFといっても伝奇ものというかホラーというかオカルトというかという感じで,割と個人的には好きな部類。
ダイエットの方程式 —— 草上仁
なんとなく内容の察せられる1タイトルだが,あんまり元ネタとは関係がない感じで面白かった。
インデペンデンス・デイ・イン・オオサカ —— 大原まりこ
『SFバカ本』のために書き下ろされた正真正銘のバカSF。大風呂敷・宇宙人,こういうの大好き。舞台が大阪なのもいい味だしてる。
ランキングをつけるなら —— 終わりに
- 白壁の文字は夕日に映える
- インデペンデンス・でイ・イン・オオサカ
- くるぐる使い
って感じかな。時代順に並んでいるアンソロジーなので,第一世代やっぱり面白いなーでも最近のも読みやすいし好きだなーみたいな楽しみもできてよかった。
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『冷たい方程式』を元にした方程式ものというジャンルがある。『冷たい方程式』自体はそれが表題の短篇集で読めるが,他の収録作は割と微妙。↩